天堂光輝の話

劇場版PRINCE OF LEGENDを観た。

ドラマは全話視聴、ソシャゲはゆるゆる。推し王子は天堂光輝。以下ネタバレを含みます。

 

 

私が迷った挙句ソシャゲの推し王子(初回星2確定)を選んだのは、ドラマ中で彼が一番真っ当な恋愛をしようとしているように見えたからだった。

成瀬果音に言い寄る王子たちは、皆自分の利益を優先し、果音の気持ちを理解しようともせずに身勝手な感情を向けているだけだった。全員まとめて、妄想押しつけ系。

果音が迷惑そうにしていた理由は劇場版で「二年前からずっと奏を想っていたから」と明かされたが、ドラマを視聴している当時はそれ以上でもそれ以下でもない印象だった。

でも天堂光輝は違った。

写真を握りしめ、涙を流す果音の姿を見て恋をし、「俺が好きなのは果音さんです」と彼女の目を見て言い切った。彼女をダシにして誰かを出し抜きたいわけでもなく、彼女を勝ち取って家を守りたいわけでもなく、光輝は純粋に、成瀬果音という一人の人間に恋をしていた。そこに打算はなかった。

今にも壊れそうな彼女を守りたい。でも自分では力不足だ、だから努力して彼女を守れる男になって、そしていつか思いの丈を告白したい。

私はそれを、美しい恋だと思った。

どうして彼が報われないのだろう、とも思った。二年も彼女を想っていて、同じ学校に入学して、やっと勇気を振り絞ったのに。迷惑です、なんて他の王子と同じように切って捨てられる云われはないのに、なぜ彼も「妄想押しつけ系」と言われてしまうのだろう。あんなに努力したのに。こんなに好きなのに。

 

その答えはすぐに出た。

結局光輝も、果音の気持ちなんて考えてはいなかったのだ。

彼女は光輝のことなんて知らない。まさか奏の写真を捨てられずに泣いていたあの時、見ていた人間がいたなんて思いもしなかったし、なにより彼女は連日王子たちに、やれプリンセスになってくれだのやれ結婚してくれだのと追い回されているところだったのだ。

光輝が知らなかったはずはない。彼があの時果音に告白したのは、「レベルの高い王子たちが彼女に言い寄っている」「このままだと取られてしまう」という焦りからだったのだから。知っていて、知っていたから、初めて果音に声をかけた。

そんなものは光輝の傲慢でしかない。あの人たちよりも早く彼女を手に入れなければ、という焦り。それは結局他の王子と同じく、果音をトロフィー扱いしていることに他ならない。

学校とバイトで毎日へとへとなのに、誰かがどこかで自分を争いのダシにしている状況、気が狂いそうだと私は思う。もう誰に何を言われても「あなたの理想を押し付けないでください」と返したくなる。彼女が逃げなかったのは母親の「只より高い物はない、貧乏でも施しは受けない」という教えを守り抜こうとしていたからで、それはそれでかなり歪な覚悟だったが、また別の話だ。

そんな気が狂いそうな状況で「他の奴に先を越される」と想いを伝えた光輝は自分の都合しか頭になかった。彼女がそれを聞いてどう思うか、彼女が今してほしいことは何なのか。そんなことは一度も考えたことがなかったのではないだろうか。

そもそも、光輝の「果音さんを守りたい」という動機も限りなく一方的で身勝手な感情だと思う。目の前にいる弱いものを守りたいと思うのは、人として自然なことだろうか。対象が見ず知らずの女性であってもそう言えるだろうか。見ず知らずの女性を追いかけて同じ高校に入学するのは、果たして微笑ましいことだろうか。その想いを突然打ち明けられても、「守ってほしいなんて頼んでない」というのが自然な反応ではないか。

もっと言えば普通に気持ち悪いのでは、と思った。果音は天堂光輝という人間をその日初めて認識したのだから。

恋とはもともとそういう、気持ち悪いものだと言われれば、それまでの話だ。恋は誰かに一方的に向けるいろいろな人を傷つける感情であって、それに対して誰一人傷つけない恋を人は愛と呼ぶわけで。

でも果音がニュートラルな状態でないことをわかった上で告白をしに行った光輝の行動は、フェアであったとは言いがたい。自分より年上の、光輝からしてみればポッと出の「レベルの高い」王子たちに負けまいと必死だったのだろう。だがその「負けたくない」という気持ちが既に、果音の気持ちではなく光輝自身の利益しか見ていないことに彼は気づけなかった。だから光輝の恋はうまくいかなくて正解だったのだ。他の王子の存在抜きに、果音と光輝の一対一の関係だったら(そこに奏もいなかったら)どうなっていたかわからない。まあべつにいいよなんて言われたら、彼は自分がどんな姿勢で恋をしていたのか理解しないままだったかもしれない。失恋を経て理解したのかどうかは知らないけれど。

 

劇場版で、果音の見ていた写真が奏の写っているものであったと判明した。

光輝は「奏の写真を見て涙を流す果音」に、恋をしてしまったのだ。もとより彼の入る余地はなかったし、尊人にも葵にもチャンスなんてものは存在しなかった。それこそアンフェアな、言ってしまえば出来レースだった。

だが尊人とも葵とも、光輝は少し事情が違った。果音が奏に恋をしていなければ、光輝が果音を想うこともなかったのだ。果音が奏のことを早々に諦めていれば、或いは何かが噛み合って、もっと早くに二人が結ばれていれば。光輝は成瀬果音という人間を知ることもなく、別のSっ気のある年上の女性を好きになっていたかもしれない。ないしは、初恋はまだ、などとはにかむ男子高校生になっていたかもしれない(果音が初恋かどうかは知らないが)。

主に劇場版PRINCE OF LEGENDにおいて、彼はとても不憫であった。一世一代の告白を「迷惑です」とあっさり振られ、自分が恋をした人は、別の男に恋をしていたとあとから知らされる。いや、知らされたのかどうかの描写もない。高校二年生、可哀想な恋だった。

 

だから、というかだけど、というか、私は天堂光輝という一人のシャイな少年をどうしても嫌いになれない。ソシャゲのストーリーで、幾話にも渡ってかなり壮大なアンジャッシュを繰り広げた彼を、どうにも愛おしく思ってしまう。

彼はいつか成瀬果音のことを忘れ、これからもたくさん恋をして生きていくのだろう。どうかその一つ一つが、彼にとって良いものであるように願う。EDの赤髪の彼の正体が判明する日を楽しみに待ちたい。